戦陣の断章

長さ五十センチほどのずんぐりとした動物が不気味な光を放っている

第十章 うなぎの寝床のこと

ブッシングは雨季に入っていた。毎日シトシトとよく雨が降った。うっそうとしたジャングルには怪鳥が鳴く。子ワニぐらいのトカゲがのそのそと木に登っていった。イトニ河から小刻みにポンポンと大発の音が聞こえてくる程度で不気味だ。海抜ゼロメートルの湿地帯であるのと長雨のため年中グショグショでしまつが悪い。文字どおり味噌もくそも一緒で、夜中に用をたすときなどはどうしょうもない。夜が明けてから宿舎の周辺はとても歩ける状態ではなかった。

第一大隊は南海岸からの敵の上陸に備えて南傾斜のジャングル内に簡易な陣地を構築した。湿地帯でのタコツボ堀りの苦労は大変なものである

ある日、私は単身で地形偵察のため南傾斜を海岸に向って降りていった。時折りB25と思われる爆音が盛んに聞こえる。上陸の企図があるのかといぶかった。

ジクジクした足もとが気になる。ジャングルのしずくが落ちてくる。ふと足もとを見ると、なんと雨の流れで出来たであろうと思われる細い溝の中に直径六センチ程度。長さ五十センチほどのずんぐりとした動物が不気味な光を放っているではないか。まさにうなぎがうなぎの寝床におさまっている姿である。近づいても逃げもしないので棒切れで目印をつけておき用務が終わって帰りに又寄ってみた。相変わらず寝込んでいる。空腹とタンパク質に飢えているわれわれだけに見逃して帰るのも惜しい。附近でかつらを見つけ縄の代りに下げることを思いついた。しかしなんとも気味が悪かった。足でかつらを巻きつけようとしたら急ににょろにょろと暴れだした。こちらも真剣だ。とうとう胴の中心部でしばりつけ下げることに成功したが、あばれるし重くはあるし縄から抜けそうでたまらない。グシャグシャした坂をいっきに駆け上がって帰隊した。隊中大騒ぎのうちに料理となったが、今だ何という動物なのか名前も分からず、味もどうだったのか憶えていない。何ともいえない附録つきの地形偵察だった。