川といえば、転進中にニューブリテン島には三種類の川があることに気が付いた。

 一つはブッシング辺りでみられた川のように河川敷が無く両岸が鬱蒼とした不気味な川である。 ワニも現れたし見るからに熱帯地方によくあるそれである。大発の隠し場所には好適だったが、敵機が川沿いに超低空で爆音をおとして奇襲してくるのには悩まされた。

 もう一つの川は転進中に水筒の水を充たしてくれた澄んだ川である。のどが渇けば常に水筒の水が飲めた。川に着けば古い水を捨てて入れ替えたものである。 何が無くても天然の川の水こそ我々の生命を守ってくれた。

 このような川を覗くとそこには南国の楽園があった。川底には可愛い「エンゼルフィッシュ」や「グッピー」達が、のどかにスイスイと泳いでいる。 水が凄く澄んでいて川藻の揺れる動きが手に取るように見え、太陽の光で色々に色が変わる。血みどろの戦闘などどこ吹く風である。 水筒の水として汲むのには魚達がかわいそうのようであった。

 三つ目の川とは、涸れ川のことである。東部へ進むにつれて遭遇した不思議な現象であった。 おそらく大雨がが続くと大きな川に戻るであろう水無し川である。上流から流れてきたものと思われるが、人骨を想像させる白い枯木で、何萬年もの肌を晒して転がっている。

 人跡未踏の奥地とは、こういう所なのかと思う。

 朽ち果てた大木が横たわり渡ろうとするとグズグズと崩れて疲れ切った足元をすくわれる。 白い枯木をまたげば途中で折れて転倒する。

清澄な川の中で外敵の心配も無げにスイスイと泳ぐ熱帯魚とわれわれの姿の何と対照的なことか。