軍装のほかに生活用具まで背負い込んで北へ北へと道なき道を歩く。
要所要所では後続部隊のために樹に傷を付け、通過日時を刻んだり、大きなミョウガのような葉を何本か折り曲げたりして進んだ。
暑い!!装備が肩に食い込む!!若さとはいえ飢餓に近い栄養状態でジャングルを切り開いての行軍だ。お粗末な地図と先に行った部隊の残した目印を頼りに部隊は黙々と進む。
アガリバチネの可成手前で私もとうとうのびてしまった。目は眩み足はもつれ口が渇く。落伍したらおしまいだ!たまりかねて軍医に頼んでビタカンフルの注射をしてもらう。 目が覚めるほど痛い。元気を取り戻し、ビア川を渡河し、ようやくコメットに到着した。
これで西部ニューブリテン島を横断したわけだ。
ここから舟艇で移動する予定だったが、船も無く兵站も引揚げてもぬけの殻だった・・・ 一同がっかりしたが、気を取り戻し、北海岸沿いに東へ東へとあても無く足を動かす。もう何日歩いたのだろうか・・・
タラセア附近に敵の動きが活発になったとの情報が入る。
ある日私は敵情偵察の為の斥候を命ぜられ、兵二人を伴って休憩中の部隊より一足先に出発した。私は生まれつきの方向音痴! 三人が頭とカンを出し合ってジャングルの中を進む。どこから敵が顔を出すか分からない。爆音が遠くに聞こえてくる。 ザワザワと雑草を押し分けようとするが、丈の高いトゲのある葉が絡んできてイライラした。ジャングルの中では太陽もろくに見えず、なおさら方向が定かでなくなってしまう。
「何か話し声が・・・」ハッと首をすくめて静止する!風に乗って確かに人の声らしいものが聞こえてくる。私は軍刀の柄に手をかけ、兵は静かに銃の安全装置を外した!!固唾をのむ!手が小刻みに震える!!!
そして息を潜めそっと接近する。だんだんと人の声が大きくなるにしたがい度胸も据わって来る。しかし何かしら声の内容が敵にしてはおかしい節が出てきた。
部下:「どうも日本人らしいですな」
私:「うむ・・・」
「あっ!!」と驚いた。なんとわが大隊の将兵ではないか!私は一瞬ためらった。何の目的で斥候に出たのか分からないではないか!然しこれはいったいどういうことなのか
自分でも判断がつかない。可成の時間うろうろとジャングルを歩き回った挙句方向を失って一廻りしてきたことになるのだ。
改めてジャングルの恐ろしさを知ったが、大隊長から大目玉を食った事は言うまでも無い!!