兵団長が決裁した各種命令の浄書は私の仕事の一つである。 高級参謀が作戦命令の起案に当たった。
夏兵団○号昭和○月○日
○○隊長宛
作戦命令
一、敵ハ・・・・・・・・・シアルモノノ如シ
一、兵団ハ、○○方面ニ重点ヲ指向シ・・・・・・・・・・・セントス。
一、歩兵第百四十一連隊ハ・・・・・・・・・・・・・スベシ。
一、○○連隊ハ・・・・・・・・・・・スベシ。
一、野戦病院ハ○○ニ位置シ、患者ノ収容ニアタルベシ。
一、予ハ○○ニ在リ。以上
といった具合に作戦要務令の教えよろしく作戦命令が組立てられる。
高等司令部になるほど内容は戦略的になるが、真野閣下は常に赤エンピツを持っておられ兵団長としての判断から思い切った手の入れ方をされた。
赤く染まった稟議書に「真」のサインをして私に渡された。命令の作為、下達等の注意事項は、 作戦要務令に明示されているが、隷下部隊がそれぞれ適格に行動をおこすための簡潔かつ明瞭な表現にはいつも感心させられた。
私は三十二年余役人生活をしてきた。毎日が公文書との取組みであるのはご承知のとおりであるが、 公文書作成の基本は軍隊も役所もその精神に変りがない。参謀の起案、司令官の判断と決裁、命令下達、 今にして思えば文字通り実戦下でのこの得がたい経験が私の役人生活にどれだけ貢献したものか。