南太平洋作戦序章


 大東亜戦争開始時における南方戦線の主な狙いは蘭印の資源を獲得することにあった。
その作戦は英領マレーと米領フィリィピンを急襲して足場を築き、 これを踏み台として迅速に蘭印を攻略、 その資源を占領確保するとともにスンダ列島線に防衛線を形成する、という構想である。
これに対して米国太平洋艦隊は日本がマレー及び蘭印を攻撃した場合、 マーシャル方面に対する攻撃と、 海上交通破壊及び要地襲撃などで日本軍を牽制して、マレー、蘭印方面の連合国の防衛作戦を 支援することとなっていた。一方、日本の聯合艦隊は、 この米国太平洋艦隊を内南洋諸島海域で激撃する基本方針で作戦を準備した。 そのための基地としてパラオ、サイパン、トラックなどが挙げられるが、 その中でもトラックは最も重要な基地として考えられていた。

 昭和十六年十一月の作戦計画で、大本営は南太平洋のビスマルク諸島を攻略の範域に加えた。
ラバウルに連合軍の航空基地がある限り、トラックは安全ではないという理由に基づくものである。
開戦に伴う日本軍緒戦の攻勢は、ハワイの真珠湾攻撃を初めとして、各方面とも概ね快調であった。
そこで十七年一月下旬、陸海軍協同してラバウルとその周辺要地を攻略。
陸軍はこの作戦に歩兵団長指揮、歩兵三個大隊基幹の兵力(南海支隊)を投入した。

 続いて三月には、海軍陸戦隊に陸軍歩兵一個大隊が協同して、 東部ニューギニアのラエ、サラモア及び ブーゲンビル島の特定地点に進攻。 五月にはガダルカナル島と、その北方フロリダ島のツラギを海軍部隊が占領した。

このころ、大本営は南方要域の攻略が既成したので、対日反攻の一大拠点である豪州の孤立化を企図し、 米豪遮断作戦を計画した。 ハワイ豪州間の空、海の中継基地であるサモア、フィジー、ニューカレドニアの各諸島を 攻略しようとするものである。この作戦構想に応じて、陸軍では第十七軍(歩兵十二個大隊基幹)を、 海軍では第八艦隊を新設した。 一方ニューギニア南岸の要衝ポートモレスビーを幾多の曲折を経て、 結局陸路オーエンスタンレー山系を越えて攻略することになり、 ラバウル攻略に任じた南海支隊が起用された。

 十七年七月その先遣隊がブナに上陸、次いで支隊力も八月中旬、糧食十六日分を背負って、 モレスビーを目指して前進を開始した。当時、連合軍の太平洋方面における反抗を十八年以降と判断した大本営は インド洋作戦、重慶作戦を慎重に検討中でありこれに対して南太平洋に対する連合軍の反攻準備は、 我が軍の予想以上に速やかに進渉していたのである。十七年八月七日午前四時十三分ガダルカナル島ルンガ岬に向かって、 七隻の軍艦が一斉に射撃を開始した。ラバウルを最終目標とする連合軍のソロモン反攻が開始されたのである。

 飛行場設定を主任務とするガ島や水上機基地であるツラギの海軍部隊は、 この連合軍の本格的反攻の前には所詮敵すべくもなかった。 敵の反攻の初期、その真意の判断か区々であった。
陸軍は急遽グアム島から宇品に向かっていた一木支隊(歩兵十二個大隊基幹)を差し向けた。
一木支隊は八月十八日ガ島上陸、二十日夜攻撃を開始した。 次いでパラオから川口支隊(歩兵四個大隊基幹)が急派され、 八月三十日から九月七日にかけてガ島に上陸した。
攻撃は十二日と十三日のの夜間に行われたが、結果は両支隊とも攻撃に失敗した。
この間、数次にわたって激しい航空戦、海上戦が行われた。その結果は因となり果となって、 両支隊の陸上戦闘に大きな影響を与えた。
前年十二月八日開戦以来、各戦線でほとんど破竹の進撃を続けていた陸軍部隊が、 攻撃に失敗し大敗したという事実は各方面に多くの波紋を投げかけた。

 この事態をどのように受け止め、どのように対処していったか。
これは大きく戦争指導も面にも関連する重大な問題であった。
ガ島の戦局は、当然ニューギニアでモレスビーを目標に突進している南海支隊にも影響した。
九月十四日支隊長は軍命令に基き、反転を決心し困難な後退作戦に移行した。
大本営も現地軍も、まずガ島を奪回して南太平洋の戦局を好転させる決意をして、その本格的準備にかかった。
昭和十七年九月下旬のことである。
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