Diary No.45 「不寝番勤務と新谷少尉」
初年兵の頃の話。
一日の演習で疲れぐっすり寝込んでいるところを「おい!起きろ!!」とたたき起こされた! 午前一時の頃である。眠い目を擦りながら帯剣を付け、銃を片手に交代する。
「立哨中以上ありません!!」と申し受けて交代する。二月の風が吹きすさび寒い! 20分ほどしてコツコツと靴の音が・・・さては巡察か?と思うや新谷見習士官が週番肩章を下げて颯爽と現れた。
「立哨中異常ありません!」と捧げ銃の敬礼をした。
「よ〜しご苦労!!」と言った後煙管(煙草の吸殻入れのこと)を数え始めた。
「おい!一個足りないぞ!」との言葉・・・異常無しとの申し送りを受けたはずだが・・・
「中隊事務所に行ってみろ」 行ってみた・・・あった!
「何をやってる!」と怒鳴られた。
「ハイ!以後注意します!!」
「これから何事にも注意せい!!」と言って去って行かれた。・・・前任者は何をやってるんだ!!・・・一時間がとても長く感じられた
時は過ぎ、我々七名の新米見習士官がニューブリテン島のラクネの戦場に赴任した。
戸伏大隊長に着任の申告(赴任の挨拶)を済ませ、将校室に行ってみると・・・
新谷少尉がニコニコしながら
「待っていたぞ!!」と言って握手をしてくれた。その時、はっと福山聯隊当時を回想していた。
談笑している内に例の不寝番の事に触れてみた。すると・・・
「そんな事があったかな〜ハッハッハ〜!!」と高笑いをしてその話は終わりを告げた。
戦後、福山に行く機会を持ち新谷さんと戦友藤山君と三人で旧聯隊跡を訪ねた。まだ兵舎をはじめ炊事場など懐かしい建物が残っていた。
その時またもや不寝番の話題になり三人して大笑いとなった。
現在旧聯隊跡は福山大学になっており昔の面影はまったくない。旧聯隊跡などと知っている人も少ないだろう。
しかしその大学には学友故山本君が教鞭をとっていたという奇しき縁がある。
長い人生には色々な人間模様があって面白い。藤山君は惜しくも亡くなってしまった。新谷さんは元気で目下詩吟と漢詩にのめり込んでいるようだ。 暫く音信はないが元気でおられるであろう。
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